(3)からの続きです。
本件の上告受理申し立ての理由は、安全配慮義務違反の場合にも弁護士費用の損害が認められるはず、というものだけではありません。
①安全配慮義務違反を認めつつ不法行為を認めないのはおかしい、
②遅延損害金を訴状送達日まで遅らせたのは不意打ちだ、
という旨の主張もしていました。
①については、(3)でも、少し触れたところです。
安全配慮義務違反の場合にも弁護士費用を認める理由が、不法行為事件における主張立証とかわらないというのであれば、①の判断に誤りがあったことが論理的には先行するはずであり、そうであるにもかかわらず、この点は最高裁により上告受理申立の段階で排除されてしまいました。
もし判断されていれば、安全配慮義務や不法行為の本質についての最高裁の考え方を窺い知る機会となったことは想像に難くなく、そうすれば裁判実務に与える影響は(良いにせよ悪いにせよ)非常に大きいものでしたが、その点を判断せずに、いわば枝葉末節の争点のみ判断したのは残念です。
もっとも、原審高裁が不法行為を認めないのは事実認定としてであるかのような判断をしていることや、そもそも上告受理申し立てが政策的な観点から受理するか否か決められるものであることからすると、この点について排除されたのは止むを得ないことかもしれません。
(5)に続きます。