労災事件の最高裁判例―安全配慮義務違反と弁護士費用(2)

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⑴からの続きです。

この判例は、「訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権」ならば、債務不履行の場合も弁護士費用が損害として認められる、と言っているように読めます。
そして、この「困難な類型に属する請求権」であるかどうかの要素として、「義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負う」ものであることを重要視しています。
そうだとすると、労災事件に限らず、例えば医療過誤事件などでは、債務不履行に基づく請求の場合においても弁護士費用が損害として認められるのかもしれません。

もっとも、この類型の事件では、通常は不法行為責任が認められるので、不法行為責任が消滅時効にかかっているといった特別の事情がない限り、実益は無い議論のように思います。
ある意味、この判例は、本来それほど実益は無い議論についての判断を示したことになると言えるかもしれません。

注目すべきは、本件事件が、不法行為責任について消滅時効にかかっている事件ではない、ということです。
にもかかわらず、最高裁が、今回本件事件を解決するにあたって「本来それほど実益は無い議論」に初の判断を示すことになった経緯には、原審の高裁判決がかなりユニークな判断をしたものであったことがあります。

⑶に続きます。


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